火事場のクソ力はあるか?

貯蓄もなく手に職もなく、妻と二人の子供に住宅ローンまでつけて40才で仕事を辞めてしまったわけですが、この、後に引けない状況がかえって自分の潜在能力を引き出してくれたのでした。

根拠のない自信

僕は火事場のクソ力はあると信じています。

というか、ありえないようなエネルギーが自分に溢れてくることを2度体験したことがあります。

登山でベースキャンプに戻れなくなった時

一度目は植村直己に憧れて入った明大山岳部1年生の時でした。

南アルプス全山を縦走する夏合宿で、途中北岳にベースキャンプを張り、そこを起点に4人で日帰りの山行を行いました。獣道しかない尾根づたいに下りて、沢登りをして別の尾根から上がってベースキャンプに戻るコースです。

ところが途中から霧が濃くなり、地形が見えずコンパスでも位置が分からなくなりました。どうやら違う尾根にとりついたようで、上に行けば緩やかな傾斜になるはずがますます険しくなっていきます。

夕方にはベースキャンプについて食事をするはずでしたが、すでにあたりは暗くなり、どこにいるかもわからず、腹も減り、みな疲労困憊していました。

 

僕は1年生で一番体力もなく疲弊していたはずなのに、頼れる先輩たちの目が泳いでいるのを見て、なぜだか俄然と体の中にエネルギーが溢れるのを感じたのでした。そして先輩が止めるのを振り切り、現在地を確かめるためにひとりでその尾根をスタスタと登って偵察に行きました。

おかげで、地形を確かめることができ、地図で確認するとやはり全く違う尾根にとりつき違う方向に来てしまったことがわかりました。このままベースキャンプには戻れないことが確認できたので、そこで急遽ビバーク(露営)することになりました。

夜の海をヨットで航海中に

2回目は、大学卒業後に就職をせずにヨットレースに参加するために、船を日本からオーストラリアまで帆走していた時のことです。

 

赤道を超えてからパプアニューギニア付近ですでに何日か嵐の中を航海していました。この時もチームは疲弊していました。そして激しい風音の中、マストでいやな音がしました。

僕はフラフラで半分寝ながらデッキにいたのですがこの音をきいて、突然体にエネルギーが溢れるのを感じました。

やばい、マストに登って状況を確認せねば。マストに登るのはバウマンというポジションの僕の役目です。その時のキャプテンは危険だからと止めましたが、状況を確認しなければ対処ができないと思い、僕は命綱をつけてマストに登りました。

 

おかげで原因を特定し、対処することができたのです。

力がみなぎるのは肉体だけではない

この2回の体験では、どちらも体は疲労困憊でフラフラだった時に、体に力がみなぎり、普段よりもむしろサクサクと動くことができたのですが、驚くことはそのことではありません。

 

体のみならず頭脳も覚醒状態になり、明晰でクリアになることです。

 

今何をしなければならないか、そしてそれが可能であることが瞬時に分かったのです。そう思ったのではなく「わかった」のです。確信を持って。

 

この2回の体験で、僕は人間の潜在的な力を見せつけられました。

このようなこともあったからでしょうか、仕事を辞めて後に引けない状況になった時に、なんとかなる、なんとかする、なんとかできる、という根拠のない不思議な自信はあったのでした。

 

Image courtesy of Sira Anamwong at FreeDigitalPhotos.net

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